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投稿者: CANPAN運営事務局
【週刊読書人】料理は科学?アート? (2008年5月9日号)(2008年5月9日)

- 週刊読書人 (2008年5月9日号)
料理は科学?アート?
強力コンビが作り上げたユニークな一冊
森枝 卓士
【週刊読書人】(2008年5月9日号)
エルヴェ・ティス/ピエール・ガニェール著
料理革命
料理は愛情。
お題目のように唱える料理人がいる。私はあれが我慢ならない。嫌悪感を抱く。
もとより、言いたいことは重々承知だ。愛情を持ってやれば、真っ当に丁寧に作るはずだし、そうしたら、美味しいものも作れますよというようなお話だろう。
しかし。それが私には「戦いは大和魂」といっているように聞こえる。冷静に戦力分析、兵站の問題等を解決してからすべきことを(もちろん、戦争をしろというのではない。例えだ)、根性論にしてしまうような愚かさを感じるのだ。
そう。料理は科学である。熱を加えたり、いくつかのものを合わせたりすることで、物理学的な、化学的な変化を起こさせ、より食べやすく、あるいは好ましく食べられるようにするという技術である。
たとえば。卵黄の凝固温度(約70℃)は卵白の凝固温度(約80℃)より低いから、七十度よりも少し低いぐらいの温度のお湯につけておくと、いわゆる温泉卵が出来る。愛情があろうがなかろうが、そのような状態にしてやれば、温泉卵になる。
さて、本書。ガニェールとティスの共著である。ガニェールは説明不要の三つ星シェフ。ティスはガニェールを含めた最近の、スペイン、フランス等の料理界で「分子ガストロミー」と呼ばれるような新しい料理の理論的支柱とでも言うべき人物である。『フランス料理の「なぜ」に答える』という著書もある。
つまり、「料理は科学である」ということを実証する強力コンビが、組んで作り上げた本だということだ。
それも、ユニークな作り。ティスがテーマを出し、ガニェールがレシピで答える。
「見るに美しく食べるに醜。見るに醜く食べるに美なる料理は?」といった問いに、あるハーブを使った魚の一品は、見た目は美しいがひどい味だったのに対して、牡蠣にイベリコハムを合わせた一品は醜悪な見た目だったが、素晴らしい味わいといった具合に返す。
愛情などというレベルではなく、ずっと深いところで食を考えさせるのだ。奇妙奇天烈なレシピ、発想に遊ばせてくれるのだ。まったく、料理とは奥深いものだと思わされる。
もっとも、料理、特にフランス料理にかなりのレベルでの知識がないと面白くはない。紹介している、見て美しいが美味しくない料理とか、その逆にしても、詳細に説明せねば、その真意は理解してもらえないと思うが、そうはいっても、日本では馴染みもないハーブ。料理法にしても、この枚数で説明が難しいようなお話ばかり。
分子ガストロノミーというのも、例えばエル・ブジがといって、お分かりの読者でなければ、またややこしい。
二人のやりとりに加えて、小説仕立ての部分もあり、全体として話が展開しているのだが、その小説仕立てが成功しているかといえば、うーんと唸るところでもある。
とはいえ、とりあえず、プロの料理人、グルメと呼ばれるような輩には一読の価値あり。いや、読むべき本である。
そうそう。「料理は科学」というだけでなく、この本はさらに、「料理は芸術である」という命題に踏み込んでの縦横無尽。いや、ほとんど哲学的命題にまで展開する。
改めて、「料理は愛情」という輩の底の浅さに思い至るのは私だけ?(伊藤文訳)(もりえだ・たかし氏=写真家・ジャーナリスト)
★エルヴェ・ティスはフランス科学アカデミー主宰“食品科学文化基金”科学部門ディレクター・フランス料理アカデミー名誉会員。一九五五年生。
★ピエール・ガニェールは一九八一年に、サン・ティエンヌ市に「ピエール・ガニェール」をオープンし、その後三つ星シェフとなる。一九五〇年生。
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強力コンビが作り上げたユニークな一冊
森枝 卓士
【週刊読書人】(2008年5月9日号)
エルヴェ・ティス/ピエール・ガニェール著
料理革命
料理は愛情。
お題目のように唱える料理人がいる。私はあれが我慢ならない。嫌悪感を抱く。
もとより、言いたいことは重々承知だ。愛情を持ってやれば、真っ当に丁寧に作るはずだし、そうしたら、美味しいものも作れますよというようなお話だろう。
しかし。それが私には「戦いは大和魂」といっているように聞こえる。冷静に戦力分析、兵站の問題等を解決してからすべきことを(もちろん、戦争をしろというのではない。例えだ)、根性論にしてしまうような愚かさを感じるのだ。
そう。料理は科学である。熱を加えたり、いくつかのものを合わせたりすることで、物理学的な、化学的な変化を起こさせ、より食べやすく、あるいは好ましく食べられるようにするという技術である。
たとえば。卵黄の凝固温度(約70℃)は卵白の凝固温度(約80℃)より低いから、七十度よりも少し低いぐらいの温度のお湯につけておくと、いわゆる温泉卵が出来る。愛情があろうがなかろうが、そのような状態にしてやれば、温泉卵になる。
さて、本書。ガニェールとティスの共著である。ガニェールは説明不要の三つ星シェフ。ティスはガニェールを含めた最近の、スペイン、フランス等の料理界で「分子ガストロミー」と呼ばれるような新しい料理の理論的支柱とでも言うべき人物である。『フランス料理の「なぜ」に答える』という著書もある。
つまり、「料理は科学である」ということを実証する強力コンビが、組んで作り上げた本だということだ。
それも、ユニークな作り。ティスがテーマを出し、ガニェールがレシピで答える。
「見るに美しく食べるに醜。見るに醜く食べるに美なる料理は?」といった問いに、あるハーブを使った魚の一品は、見た目は美しいがひどい味だったのに対して、牡蠣にイベリコハムを合わせた一品は醜悪な見た目だったが、素晴らしい味わいといった具合に返す。
愛情などというレベルではなく、ずっと深いところで食を考えさせるのだ。奇妙奇天烈なレシピ、発想に遊ばせてくれるのだ。まったく、料理とは奥深いものだと思わされる。
もっとも、料理、特にフランス料理にかなりのレベルでの知識がないと面白くはない。紹介している、見て美しいが美味しくない料理とか、その逆にしても、詳細に説明せねば、その真意は理解してもらえないと思うが、そうはいっても、日本では馴染みもないハーブ。料理法にしても、この枚数で説明が難しいようなお話ばかり。
分子ガストロノミーというのも、例えばエル・ブジがといって、お分かりの読者でなければ、またややこしい。
二人のやりとりに加えて、小説仕立ての部分もあり、全体として話が展開しているのだが、その小説仕立てが成功しているかといえば、うーんと唸るところでもある。
とはいえ、とりあえず、プロの料理人、グルメと呼ばれるような輩には一読の価値あり。いや、読むべき本である。
そうそう。「料理は科学」というだけでなく、この本はさらに、「料理は芸術である」という命題に踏み込んでの縦横無尽。いや、ほとんど哲学的命題にまで展開する。
改めて、「料理は愛情」という輩の底の浅さに思い至るのは私だけ?(伊藤文訳)(もりえだ・たかし氏=写真家・ジャーナリスト)
★エルヴェ・ティスはフランス科学アカデミー主宰“食品科学文化基金”科学部門ディレクター・フランス料理アカデミー名誉会員。一九五五年生。
★ピエール・ガニェールは一九八一年に、サン・ティエンヌ市に「ピエール・ガニェール」をオープンし、その後三つ星シェフとなる。一九五〇年生。
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