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【週刊読書人】アソシアシオンの二百年を超える経験を総合的に解明 (2007年7月6日号)(2007年7月6日)

- 週刊読書人(2007年7月6日号)
アソシアシオンの二百年を超える経験を総合的に解明
渡辺 公三
【週刊読書人】(2007年7月6日号)
高村 学人著
アソシアシオンへの自由
<共和国>の論理
フランス滞在中、友人のつてでジャズの貸し練習場を覗いたことがある。パリの下町らしい古工場をアソシアシオンが買い取って防音した小部屋に改装し、ジャズ愛好家の拠点になっている。国の補助もあるという。市民生活の質を支える非営利組織の裾野の広がりが印象的だった。その背景を知りたくて素人の無知を省みずアソシアシオンを主題とする本書に飛びついた。新たな研究対象を探る人類学は最近「中間団体」に関心を寄せてもいる。「常識」では、フランス革命の渦中に制定されたル・シャプリエ法が解体しつくした中間団体を、デュルケーム社会学が理論的に再構築し、今日再生した多彩なアソシアシオンが人びとの生活を活性化しているということだろう。革命後の近代国民国家形成の過程で、裸の個人を析出するために、中間団体の解体と抑圧は必要なステップだったとされるともいう。
本書の著者は、1791年のル・シャプリエ法から、1901年のアソシアシオン法制定後今日まで、緻密な論理と広汎な資料の分析をつうじて、アソシアシオンが「常識」を超える豊かな歴史をもち、まさに「共和国の鏡」(仏語の書名の副題)であることを説得力をもって証明している。法社会学の枠組みのなかで、国家と中間団体と個人の相互関連がどうとらえられているかという「社会像」、法と人びとの日々の具体的な関係を見る「法と社会の相互作用」、法の生成の過程を追究する「法の相対的自律性」という3つの視点を一貫して保持する周到な方法論、そしてこれらの視点が要請する立法史料と警察行政史料と判例・法学説という幅広いコーパスへの過不足ない目配りがその説得力を支えている。何よりも、革命後の目まぐるしい体制変化のなかでの出来事(政治家たちの発言の分析など)ばかりでなく、サン・テチエンヌ市でのアソシアシオン動向の事例研究もふくむ歴史的事実の細心の検証と、学説(ドイツ法学との対話から生まれた法人学説など)への深い沈潜を経た理解との結合が、著者の法社会学の射程を深いものにしている。
「反結社という近代」「中間団体政策の変遷」「アソシアシオン法の形成」という三部構成は、王権のもとでの旧体制の「社団的編成」の解体から、叢生した結社が支えた革命勢力が一端権力奪取するとなぜその結社を禁圧したか、革命という稀な経験を経たフランス社会が人間の結びつきをいかに編みなおしたか、革命の意味がその都度どれほどの振幅をもって再解釈されたか、三部の表題に端的に表現される太い輪郭で描き出している。と同時に、太い輪郭にそえてニュアンスに富んだ歴史過程に注意が喚起されている。第一部にはル・シャプリエ法と並行して進んだ請願権の制限の動向、修道会の破壊とそれに伴った所有権の議論、法人擬制論の形成が議論され、中間団体禁止が「福祉」の国家への集中の端緒だったことが確認される。第二部には、しばしばいわれるようにナポレオン体制が革命精神を継承して中間団体を抑制したのではなく、ポリス的な秩序維持を図りつつむしろ一定のアソシアシオンの容認を進めたこと、また王政復古後体制の目まぐるしい変化のなかで社会の空洞化が意識れ、さまざまな仕方で初期社会主義をふくむ新たなアソシアシオンの模索があり、個別法による結社の一定の容認と制御がおこなわれるいっぽう、共和主義者の修道会への警戒は解かれなかったことが緻密に分析される。そして第三部では、アソシアシオンがもちうる権利能力(たとえば財産の所有や寄附の受け取りは認められるのか)をどう規定し、国家との関係をどう規定するかという根幹にかかわる論理が法人学説として深化されながらも、1901年のアソシアシオン法を起草したワルデック=ルソーはアソシアシオンを私法としての契約によって基礎付けることで民法(法人を規定しない)の拡張によって結社の自由を法制化したことが明らかにされる。
冒頭に紹介された2001年のアソシアシオン法制定100周年記念行事の賑々しさに比して、その制定の実際の影響は小さかったことが事例分析に即して明らかにされる。と同時に本書の巨細な分析全体がフランス市民社会と市民生活にとって2000年を超えるアソシタシオン経験の蓄積がいかに大きな遺産であるかを深く納得させてくれる。本書はこの経験を総合的に解明している。この達成の次のステップとして著者が自ら課している、国家論と法人学説との関係の探求を刮目して待ちたい。(わたなべ・こうぞう氏=立命館大学教授・文化人類学専攻)
★たかむら・がくと氏は立命館大学准教授・法社会学専攻。早大大学院博士課程中退。一九七三(昭和48)年生。
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渡辺 公三
【週刊読書人】(2007年7月6日号)
高村 学人著
アソシアシオンへの自由
<共和国>の論理
フランス滞在中、友人のつてでジャズの貸し練習場を覗いたことがある。パリの下町らしい古工場をアソシアシオンが買い取って防音した小部屋に改装し、ジャズ愛好家の拠点になっている。国の補助もあるという。市民生活の質を支える非営利組織の裾野の広がりが印象的だった。その背景を知りたくて素人の無知を省みずアソシアシオンを主題とする本書に飛びついた。新たな研究対象を探る人類学は最近「中間団体」に関心を寄せてもいる。「常識」では、フランス革命の渦中に制定されたル・シャプリエ法が解体しつくした中間団体を、デュルケーム社会学が理論的に再構築し、今日再生した多彩なアソシアシオンが人びとの生活を活性化しているということだろう。革命後の近代国民国家形成の過程で、裸の個人を析出するために、中間団体の解体と抑圧は必要なステップだったとされるともいう。
本書の著者は、1791年のル・シャプリエ法から、1901年のアソシアシオン法制定後今日まで、緻密な論理と広汎な資料の分析をつうじて、アソシアシオンが「常識」を超える豊かな歴史をもち、まさに「共和国の鏡」(仏語の書名の副題)であることを説得力をもって証明している。法社会学の枠組みのなかで、国家と中間団体と個人の相互関連がどうとらえられているかという「社会像」、法と人びとの日々の具体的な関係を見る「法と社会の相互作用」、法の生成の過程を追究する「法の相対的自律性」という3つの視点を一貫して保持する周到な方法論、そしてこれらの視点が要請する立法史料と警察行政史料と判例・法学説という幅広いコーパスへの過不足ない目配りがその説得力を支えている。何よりも、革命後の目まぐるしい体制変化のなかでの出来事(政治家たちの発言の分析など)ばかりでなく、サン・テチエンヌ市でのアソシアシオン動向の事例研究もふくむ歴史的事実の細心の検証と、学説(ドイツ法学との対話から生まれた法人学説など)への深い沈潜を経た理解との結合が、著者の法社会学の射程を深いものにしている。
「反結社という近代」「中間団体政策の変遷」「アソシアシオン法の形成」という三部構成は、王権のもとでの旧体制の「社団的編成」の解体から、叢生した結社が支えた革命勢力が一端権力奪取するとなぜその結社を禁圧したか、革命という稀な経験を経たフランス社会が人間の結びつきをいかに編みなおしたか、革命の意味がその都度どれほどの振幅をもって再解釈されたか、三部の表題に端的に表現される太い輪郭で描き出している。と同時に、太い輪郭にそえてニュアンスに富んだ歴史過程に注意が喚起されている。第一部にはル・シャプリエ法と並行して進んだ請願権の制限の動向、修道会の破壊とそれに伴った所有権の議論、法人擬制論の形成が議論され、中間団体禁止が「福祉」の国家への集中の端緒だったことが確認される。第二部には、しばしばいわれるようにナポレオン体制が革命精神を継承して中間団体を抑制したのではなく、ポリス的な秩序維持を図りつつむしろ一定のアソシアシオンの容認を進めたこと、また王政復古後体制の目まぐるしい変化のなかで社会の空洞化が意識れ、さまざまな仕方で初期社会主義をふくむ新たなアソシアシオンの模索があり、個別法による結社の一定の容認と制御がおこなわれるいっぽう、共和主義者の修道会への警戒は解かれなかったことが緻密に分析される。そして第三部では、アソシアシオンがもちうる権利能力(たとえば財産の所有や寄附の受け取りは認められるのか)をどう規定し、国家との関係をどう規定するかという根幹にかかわる論理が法人学説として深化されながらも、1901年のアソシアシオン法を起草したワルデック=ルソーはアソシアシオンを私法としての契約によって基礎付けることで民法(法人を規定しない)の拡張によって結社の自由を法制化したことが明らかにされる。
冒頭に紹介された2001年のアソシアシオン法制定100周年記念行事の賑々しさに比して、その制定の実際の影響は小さかったことが事例分析に即して明らかにされる。と同時に本書の巨細な分析全体がフランス市民社会と市民生活にとって2000年を超えるアソシタシオン経験の蓄積がいかに大きな遺産であるかを深く納得させてくれる。本書はこの経験を総合的に解明している。この達成の次のステップとして著者が自ら課している、国家論と法人学説との関係の探求を刮目して待ちたい。(わたなべ・こうぞう氏=立命館大学教授・文化人類学専攻)
★たかむら・がくと氏は立命館大学准教授・法社会学専攻。早大大学院博士課程中退。一九七三(昭和48)年生。
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